大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松地方裁判所 昭和39年(行ウ)8号 判決

高松市五街町三番地の二三

原告

香川勤労者音楽協議会

右代表者委員長

須崎英二

右訴訟代理人弁護士

木藤鉄之助

阿河準一

士田嘉平

児玉憲夫

大錦義昭

三好泰祐

高松南備上町

被告

高松税務署長

横山澄

観音寺市栄町

被告

観音寺税務署長

中村一夫

右被告両名指定代理人

高松法務局税務部

検事

河村幸登

第二課長

岩部承志

法務事務官

萩原義照

高松国税局

大蔵事務官

赤沢敏澄

沖村繁香

右原告と被告高松税務署長との間の昭和三九年(行ウ)第八号、昭和四〇年(行ウ)第一〇号、同年(行ウ)第一一号、昭和四一年(行ウ)第六号、昭和四二年(行ウ)第三号、同年行ウ第一二号、右原告と被告観音寺税務署長との間の昭和四二年(行ウ)第九号課税処分取消請求併合事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

(原告)

一、被告高松税務署長が原告に対し、

1. 別表一記載のとおり、昭和三八年四月二二日付でした、昭和三七年四月から同年一〇月までの入場税に関し、入場税額合計一四万八、一九〇円とする課税処分(以下第一課税処分という。)

2. 別表一記載のとおり、昭和三八年九月一四日付でした、昭和三七年四月から同年一〇月までの入場税に関し、入場税無申告加算税額合計一万四、四〇〇円とする課税処分(以下第二課税処分という。)

3. 別表二記載のとおり、昭和三八年九月一四日付でした、昭和三七年七月の入場税に関し、入場税額二万四、四七〇円、入場税無申告加算税額二、四〇〇円とする更正課税処分(以下第三課税処分という。)

4. 別表三記載のとおり、昭和三八年九月一四日付でした、昭和三八年二月から同年五月までの入場税に関し、入場税額合計一一万九、九〇〇円、入場無申告加算税額合計一万一、九〇〇円とする課税処分(以下第四課税処分という。)

5. 別表四記載のとおり、昭和三八年九月一四日付でした、昭和三七年七月の入場税に関し、入場税額一、五四〇円とする課税処分(以下第五課税処分という。)

6. 別表五記載のとおり、昭和三九年一二月一一日付でした、昭和三九年七月から同年九月までの入場税に関し、入場税額合計二七万五、二八〇円、入場税無申告加算税額合計二万七、三〇〇円とする課税処分(以下第六課税処分という。)

7. 別表六記載のとおり、昭和四〇年三月一七日付でした、昭和三九年一〇月から同年一二月までの入場税に関し、入場税額合計二二万四、六六〇円、入場税無申告加算税額合計二万二、三〇〇円とする課税処分(以下第七課税処分という。)

8. 別表七記載のとおり、昭和四〇年九月九日付でした昭和三八年一一月から同年一二月から同年一二月まで、昭和四〇年一月から同年六月まで、同年三月、同年五月の入場税に関し、入場税額合計五七万三、五〇〇円、入場税無申告加算税額合計五万六、七〇〇円とする課税処分(以下第八課税処分という。)

9. 別表八記載のとおり、昭和四一年三月三〇日付でした、昭和四〇年七月から同年一二月までの入場税に関し、入場税額合計四八万三、二七〇円、入場税無申告加算税額合計四万八、〇〇〇円とする課税処分(以下第九課税処分という。)

10. 別表九記載のとおり、昭和四二年三月二八日付でした、昭和四一年七月から同年一二月までの入場税に関し、入場税額合計四〇万四、一〇〇円、入場税無申告加算税額合計四万円とする課税処分(以下第一〇課税処分という)

をいずれも取消す。

二、被告観音寺税務署長が原告に対し、別表一〇記載のとおり昭和四一年一二月二一日付でした、昭和四一年八月の入場税に関し、入場税額二、九七〇円とする課税処分(以下第一一課税処分という。)を取消す。

三、訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決。

(被告ら)

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

(原告)

一、原告は、香川県とその近辺に住む勤労者、学生、一般市民の音楽愛好者(会員)によつて構成された「サークル」(最低三名の会員からなる。)が集合して形成された団体(昭和三九年八月現在三〇〇サークル、会員数三、〇〇〇名を擁している。)であつて、多くの会員がよい音楽を安い値段で観賞出来るようにし、右音楽の理解を通じて人間性を養い働く者の生活を豊かにするための種々の音楽活動を行つているものであつて、その一として定期的な音楽会(「例会」)を開催している。

二、被告高松税務署長および同観音寺税務署長は、原告が別表一ないし一〇の開催日欄記載の日に開催場所欄記載の場所で開催した各例会を入場税法二条一項の「催物」、原告を同条二項の「主催者」、原告の会員を「入場者」、会員の醵出した会費を同条三項の「入場料金」と認めて原告に対し第一ないし第一一課税処分をした。

原告は右課税処分に対し、同表記載のとおり被告らに異議の申立をしたが、被告らは同表記載のとおり異議申立を棄却し(但し、同表一、二記載のとおり審査請求とみなされたものを除く。)たので、原告は同表記載のとおり高松国税局長に対し審査請求をした(但し同表一、二記載のとおり一部は審査請求とみなされた。)が、同国税局長は同表記載のとおり審査請求を棄却した。

三、しかし、被告らのした右各課税処分は、次の理由によつて違法であるから、何れも取消されるべきである。

(一) 原告は前記の通り構成単位であるサークルの単なる集合体であつて人格なき社団に該当するものではなく、従つて一般的な納税義務能力を有しないものであるから、斯る集合体に対して入場税を課することは出来ない。

(二) 次に原告が人格なき社団に該当するとしても、憲法三〇条は「国民は法律の定めるところにより納税の義務を負う」と規定しているところ、右に云う国民とは自然人及び法人を指すのであつて人格なき社団はこれに含まれない。けだし、私法上権利義務能力のないものは租税負担能力もないのであるし、又租税は納税義務者が財産を所有する場合にその財産から徴収するものであるが、人格なき社団はその特有の財産を持たないからである。従つて斯る社団にも入場税法が適用されるとすれば同法は憲法三〇条に違反するものである。

(三) 仮に憲法三〇条に規定する国民の中に人格なき社団も含まれるとしても、斯る社団に入場税法による入場税を課することは憲法八四条に定める租税法律主義の原則に違反するものである。即ち、

(1) 租税法律主義のもとでは、納税義務者、課税物件、その帰属、課税標準、税率等の課税要件については勿論、税徴収の手続も法律又はこれに基づく政令等によつて明確に定められていなければならない。従つて人格なき社団に入場税の納税義務を課する為には現行所得税法四条、法人税法三条の如き明文規定がなければならないが、入場税法には斯る規定は存しない。

この点について被告らは、入場税の実質的負担者は入場者であり、入場税法三条に云う主催者は入場者に代つて入場税を納入するにすぎないから主催者の法人格の有無は問うところではなく、人格なき社団もこれに含まれると解すべきであると主張するが入場税法上、主催者が納税義務者であるとされていることは明らかであつて、興行界に自由競争が行われている以上、入場税が常に入場者に転嫁されるとは限らない実情にあることからすれば、主催者が入場税の実質的負担者でもあると云うべきであり、主催者は自己の財産から納税義務を履行しなければならないのであるから、明文の規定がないまま主催者に人格なき社団が含まれるとするのは租税法律主義に反した解釈であり、立法論と解釈論を混同するものである。又仮に主催者の負担するのが実質的に特別徴収義務であるとしても、その義務を怠つた場合、主催者自身の財産に対して滞納処分がなされるなど、納税義務の場合にも匹敵する重大な利害関係を生ずるのであるから、単に徴税上便宜である故をもつて同文の規定なくして人格なき社団が主催者に含まれると解するのは、やはり租税法律主義に反する。

又被告らは入場税法八条一項の別表上欄の規定を根拠に同法は人格なき社団にも納税義務のあることを予定していると主張するが、入場税法上納税義務者に関する基本的法条は同法一条ないし三条であつて、同別表は右基本法案をうけて定められたものであり、しかも直接には免税興行に関する規定に付属しているものであるから、同別表によつて基本法条が修正される道理はない。なお、同別表には「社会教育法一〇条の社会教育関係団体」が掲げられているところ、同法一〇条によれば、右団体は法人であると否とを問わないとされているけれども、それは、右団体がその社会教育事業を行うにつき、文部大臣及び教育委員会から種々の指導、助言、援助を受けはするが(同法一一条)、国及び地方公共団体から不当な支配、干渉を加えられることはない(同法一二条)ところから、同法の適用団体の範囲を出来るだけ広げるのが望ましいがためである。従つて、右別表に社会教育関係団体が掲げられていることから、直ちに租税法規(それは一方的に国民から財産を奪い何らの反対給付も与えないものである。)たる入場税法三条の主催者に人格なき社団が含まれると解することは、租税法律主義、なかんずくその明確の原則からして許されないところであり、右別表に云う社会教育関係団体とは、法人格を有するものに限られ、法人格を有しないもの(それはもともと納税義務者ではない。)を含まないと云うべきである。又、右別表にいう「児童、生徒、学生又は卒業生の団体」の総てが法人格を有するとは限らないけれども、このことから、人格なき社団が入場税法上の主催者に含まれると解することは租税法律主義からしてやはり許されない。

(2) 尚入場税法二三条は納税義務者である個人又は法人が消滅した場合に於ける納税義務の承継について規定しているが、解散などにより消滅の考えられる人格なき社団について何ら規定していないし、又同法二五条ないし二八条は個人及び法人についての罰則を規定しているが人格なき社団については何ら規定していないのであつて、これらの点からも同法が人格なき社団を納税義務者と予定していないことが明らかである。

(3) 又法解釈に当つては立法者の思想も尊重せねばならないところ、昭和三七年四月一日施行の改正入場税法二八条の改正と同年施行の国税通則法の制定審議の経験からみると、政府、国会とも人格なき社団は明文なき限り納税義務者たり得ないと考えていたことが窺える。

即ち昭和三七年二月二一日国会に提出された国税通則法政府原案には、人格なき社団等を「国税に関する法律の規定については法人とみなす」との規定があり、これによれば国税全般に亘つて、人格なき社団等を法人とみなすことになる筈であつたが、国会審議の過程で、結局、斯る社団等を「法人とみなしてこの法律の規定を適用する」(三条)と修正されたので、斯る社団等は国税通則法の規定の適用のみについて法人とみなされることになり、従つて、納税義務の存否については今迄通り各税法の規定によることとなつた。そして同年四月一日に施行された改正入場税法には、右国税通則法政府原案に歩調をあわせ、二八条に人格なき社団に関する罰則規定が設けられていたところ同政府原案の前記修正にともない、「国税通則法の施行等に伴う関係法令の整備等に関する法律」(同年四月二日制定)により、右改正入場税法の人格なき社団に関する両罰規定が削除されるに至つたが、もし入場税法が人格なき社団に対し解釈上当然に適用されるのであれば、右通則法の政府原案は必要のないことであり、又仮に右政府原案が入場税に関する限り偶発的なものにすぎないのであれば、たとえそれが修正されても、入場税法二八条の人格なき社団に関する確認的なものに過ぎないのであれば、たとえそれが修正されても、入場税法二八条の人格なき社団に関する両罰規定を削除することは理論上あり得ないことである。要するに、国税通則法政府原案の修正により、入場税法二八条の右改正部分を削除したと云うことは、理論的に考えれば、人格なき社団等に関する明文の規定を設けない以上、入場税法は斯る社団等に適用されないことを裏づけるものである。

(四) 入場税法は憲法二五条に違反する。

今日、音楽や映画、演劇などを鑑賞する者の大多数は勤労大衆であり、それは勤労者にとつて明日のための労働力を回復し、憲法二五条で保障された健康で文化的な生活を営むために不可欠なものとなつているが、入場税は低賃金、重税、高物価にあえぐ勤労大衆をその実質的担税者たらしめて大衆収奪の機能を果し、これらの者が健康で文化的な生活を営むことを著しく困難にしており、ひいては日本文化の発展を阻害し、さらには民主的運動や民主的諸団体を弾圧する役割を演じているものであるから、入場税法は憲法二五条に違反する。

(五) 仮に入場税法が憲法二五条に違反しないとしても、原告に入場税を課することは憲法二五条に違反する。

勤労者は、労働力を回復し憲法の保障する人たるに価する生活を営むために、ときには音楽を聴き、演劇を鑑賞する必要があるが、勤労者の賃金は極端に低い上に、勤労所得税や間接税等の重税を課せられているため、勤労者が文化費を稔出することは不可能な状態にあり、しかも営業的な音楽等の興行は極めて高価でかつ頽廃的、植民地主義的であるため、勤労者はこれによつて文化的欲求を満足させることが出来ない。そこで、勤労者の文化的欲求を満すことを可能にし、広く勤労者の間に健全な音楽文化を普及発展させることを目的として、勤労者が自らの力で組織したのが原告である。従つて、国としては原告の活動を援助すべきであるのに、却つてこれに対して入場税を課することによつて原告の例会の開催を制約し、或いは会費の増額を余儀なくさせて、勤労者を中心とする原告の構成員が文化的な最低限度の生活を営むことを妨げているから、原告に入場税を課することは憲法二五条に違反する。

(六) 原告の例会は入場税法二条一項の「催物」に該当せず、従つて原告は同条二項の「主催者」ではない。

入場税法二条一項の「催物」とは、同項の文言からも明らかなように、音楽等を「聞かせ、見せる側」と「聞かされ見せられる側」との対立関係を前提としているところ、原告の例会は、会員が自らこれを企画運営して鑑賞するするものであつて、多数人に聞かせ、聞かせられるという対立関係は存在しないから、例会は同項の「催物」に該当しないし、又原告は同条二項の「主催者」にも該当しない。

(1) 原告の活動は、具体的には次のような組織構成によつて行われている。即ち、原告には、各サークルの代表者によつて構成される「代表者会議」(活動方針、予算大綱、規約改正等を決議する。)代表者会議によつて選出された運営委員で構成される「運営委員会」(代表者会議で決議された活動方針に基づき、日常活動の運営方針を決する。)運営委員会によつて運営委員の中から選出される「委員長」「副委員長」「事務局長」(いわゆる三役)、運営委員によつて構成される「専門部会」(企画、宣伝組織事業、財政の四部があり、各部に「部長」、「副部長」をおく。)各専門部会の正副部長と三役とで構成される「常任委員会」(各専門部会間の意見調整をはかる)行政区画に従い数サークルが集つて構成される「地域会議」(運営委員の出席を得て、例会等の原告の活動に対する批判要望等を討議する。)があり各会員は、何時、如何なる会議にも自由に参加して意見を述べることが出来るし、運営委員も常に各サークルと接触して会員の意見を尊敬するよう心掛けており、会員による自主的、民主的運営が最大限に行われている。

(2) そして例会の企画運営は、代表者会議開催(年二回)の数ケ月前から、サークル、地域会議、運営委員会等で、上演内容、出演者等について討議され、その結果が代表者会議で運動方針に組みこまれ、その運動方針に従い、運営委員会が各専門部会の検討を経て上演種目、上演者等の実践方針案を作成し、これが各サークルや地域会議で討議され、その結果に基づき、運営委員会が最終的に例会の種類内容を決定し、ここに至つてはじめて出演者、会場等の交渉にはいることとなる。

(3) 出演者との交渉、契約については、(イ)原告独自で行うもの、(ロ)四国四県内にある七の勤労者音楽協議会(労音と略称される)単位で行うもの、(ハ)全国の労音単位で行うものの別がある。(ロ)については、四国労音の連絡会議で各労音意見が調整され、これが各労音で討議されたのち、再び右連絡会議で調整され、その結果に基づき、同会議の事務局長が出演者と上演内容等を具体的に交渉し、同会議の議を経たのち、出演者と契約を締結する(即ち、この場合、原告ら単位労音は出演契約の当事者とならない。)出演料は各単位労音が所定分だけ支払うが、旅費等は右連絡会議が支払う。(ハ)については、四国労音連絡会議を通じて全国の各連絡会議(一七存在する。)で右(ロ)と同様にして意見調整が繰りかえされ、例会が具体化される。

(4) このようにして、例会の上演種類内容、日程が決定されると、原告は機関誌で会員に周知させるとともに、事務局長ないし運営委員長が原告名義で会場の使用契約を締結する。また例会の実施計画が定まると、当月の会費を納入した会員に対して、例会当日の会場の混雑、観賞者の片寄りを調整するためには、参加券とともに「参加券」を交付する。会員が例会に参加するためには、参加券とともに「会員証」を提示しなければならない。参加券は交付を受けた会員自身でなければ使用することができず、会員証は、サークル番号、代表者名、会員名が記載され、かつ色彩(男は紺、女は赤)、記号(年令が一〇代はト音記号が一、二〇代は同二、三〇代は同三、四〇代以上は同四)により、会員の特定が容易になされ得るようになつており、それにより、会員自身の自主的活動である例会に会員以外の第三者が参加することを排除している。また、例会の会場設営、出演者の接待、例会当日の進行等はすべて各サークルが毎月交替で担当している。

(5) 以上のところから明らかなように、例会は、原告が原告の会員から別個独立に存在してこれを開いているのではなく、原告の会員全体が協力して自らこれを開いているのである。そして、例会の実施にあたり、対外的に私法的法律関係を発生する場合は、委員長がその衝にあたること前述のとおりであるが、この委員長は会員全員の代理人として会場借受契約、出演契約等の諸契約の締結、関係諸経費の支払等をなすものであり、従つて右契約締結等は原告の会員全員がなすものであつて、会員と独立して存在する原告がなすものではない。

(七) 原告の構成員(会員)の支出する会費は入場税法二条三項の「入場料金」ではなく、原告は入場料金を「徴収」していない。

入場料金であるためには、それが催物と対価関係になければならないが、会費は例会観賞の対価として支出されるものではない。

原告の主たる活動が例会の開催であることは否定できないが、これのみにとどまる訳ではなく、レコードコンサート、フオークダンス、歌唱指導、合唱会、例会合評会、座談会等の開催、機関誌「みゆーじつく香川」その他ニユース誌の発行等多岐にわたつており、これら諸活動には当然費用を必要とするところ、この費用を各会員が分担提出するのが「会費」および「入会金」であるから、それは決して例会観賞の対価ではない。原告の年間総費用のうち例会開催のための費用(例会費)の占める割合は六割に過ぎず、残り四割は機関誌発行費、宣伝活動費、事務局費、前記四国労音連絡会議ないし全国労音連絡会議の分担金等であり、毎月の「会費」は年間経営費(事務局費等例会以外の活動費)を一二分し、それにその月の例会費を加えたものを会員数で除して決せられるのであつて、一般の興行のように入場そのものの対価として決せられるものではない。尤も、例会費が大となれば会費も大となる関係にはあるが、これは原告の活動費の分担額が右の通り例会費に釣合うように決められるためであつて、このことと会費が活動費の分担であることとは矛盾しない。

昭和三八年一二月以前においては、税務当局は、労音に対する入場税を賦課するにつき、例会の開催に直接要した経費の総額から入場料金を算出するいわゆる経費課税方式(入場税法七条)を採用していたが、これは税務当局自身、会費の総べてが例会費用に当てられているのではないこと、即ち会費の総てが入場との対価性を有するものではないことを認めていたことを意味する。従つて、被告らが昭和三九年一月以降に於て、少なくとも会費の総てについて入場との対価性を認めたのは誤つている。

四、なお、仮に別表記載の各例会につき原告に入場税が課せられるとすれば、各例会の入場人員、経費総額、課税標準額、入場税額、無申告加算税額がいずれも被告ら主張の通りであることは認める。

(被告ら)

一、原告の主張一のうち原告が定期的に音楽会(例会)を開催していること、及び同二の事実は認めるが、その点は争う。

二、原告は、別表一ないし一〇記載の通り各開催日欄の日に各場所欄の興行場等を借受けて、各例会の種類内容等の音楽家等による音楽演奏等を上演し、原告の会員ら多数人に見せ又は聞かせ、その入場の対価として会費を徴収したものであるが、原告は、入場税の申告並びに納税を怠つたので、被告らは右例会の実態を調査して、原告に対し本件第一ないし第一一課税処分をしたものであり、その税額算出の基礎となつた各例会の入場人員又は経費総額及び課税標準額は、同じく別表一ないし一〇に記載の通りである。

三、本件課税処分は何れも適法である。

(一) 原告は人格なき社団である。

社会に存在する人的総合体のうちで法人格を与えられてはいないが団体としての組織をそなえ、多数決原理が行われ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等の団体としての主要な点が確定していて、組織的単一体として独立性を有するものは人格なき社団と称され、その実体は社団法人と異なるところはないから、実体法上独立した法的地位を見するものとされている。

ところで、原告は「よい音楽を安く上演し、会員に観賞させる」ことを目的として、香川県とその近辺に住む勤労者、学生、一般市民等の音楽愛好者によつて構成され、意思決定機関としてサークルの代表者によつて構成される最高決議機関たる代表者会議及び活動運営を決定する運営委員会があり、運営機関として常任委員会と専門部会があり、役員、代表者が選出せられ、会員の入脱会は自由であり、昭和二九年一二月に組織されて以来会員の増減変動にかかわらず一の団体として存続し、毎月定期的な音楽会等(例会)を開催して来たものであり、斯る活動を通じて、他人と法律関係を持ち、原告の法律的地位ないし存在を承認せられ、或いはこれを主張して来ている。斯る実態に照せば、原告が人格なき社団に該ることは明らかである。従つて原告が人格なき社団でないことを理由にその一般的納税義務能力を否定することは出来ない。

(二) 人格なき社団は憲法三〇条の国民に含まれる。

人格なき社団はその代表者を通じて、自己の名において第三者と有効に私法上の契約をなす等自然人、法人と同様に社会生活上の一単位として社会的作用ないし活動を営んでいるのであり、その財産は構成員の「総有」に属して社団の債務の引当てとされるものであつて、各構成員は右財産に対し当然には共有権又は分割請求権を有しないのである。斯様に人格なき社団が独立の一単位として社会活動を営んでいる以上、これに民法上の権利能力が認められないからといつて、公法の分野でも権利義務の主体たり得ないものと云うことはできないのであつて、要は、各種行政法規において人格なき社団についてこれを規制の対象にしているかどうかは、もつぱら当該行政法規の解釈によつて定まるものである。ところで憲法三〇条は、国民は納税の義務を負う旨規定するか、同条は納税義務を負う者を自然人及び法人に限定し、それ以外のものに納税義務を負わすべからざることを規定しているものではない。納税義務は日本国籍を有する自然人、法人のみならず外国人は勿論、人格なき社団といえども憲法八四条に基づき法律を以つて定める場合は納税義務を負わすことが出来るのであつて、憲法三〇条はこれらの者に対する課税を排除する趣旨ではない。

(三) 人格なき社団も実体法上社会生活の一単位とのて法律的地位を与えられ、自然人、法人と同様に社会的活動を営んでいることは前記の通りであり、入場税法は右のことを前提として斯る社団も自然人、法人と並んで入場税の納税義務者たり得ることを規定している。

即ち、

(1) 入場税法三条によれば、入場者から領収する入場料金につき納税義務のある者は興行場等の経営者又は主催者とされているところ、同法二条一項所定の催物を行うには種々の形態があり、概して個人又は法人が興行場を常設して長期間継続して行うものが多いが、それのみではなく人格なき社団等が臨時に興行場を借り受けて催物を主催して入場料金を領収している場合がある。そこで入場税法は斯る催物を主催する者につきその法人格の有無に関係なく興行場を常設して継続して催物を行う経営者と臨時に興行場を借り受ける等して催物を行う主催者に大別し両者共入場税を負担せしめることとしたものである。従つて同法の入場税納税義務者は現実の「経営者」又は「主催者」であれば足り、この主催者等が入場者から入場料金を領収すればこれによつて課税要件が充足され、その者が自然人であるか法人であるか又は人格なき社団であるかは問うところではないのである。このことは同法八条一項別表の規定からも窺われるのであつて、即ち同別表上欄の規定中には人格なき社団と考えられるものもあり、これらも同法の入場税納税義務のあることを前提とし、ただ同条、所定の要件を備える場合にのみ免税とすることを規定しているのである。尤も入場税法には現行所得税法四条、法人税法三条の如き規定はないが、右同法は個人、法人及び人格なき社団又は財団そのものを対象とし夫々の所得に対して所得税又は法人税を課するものであるのに対し、入場税法は消費税の一担として催物の興行場へ入場するのに対して課税するものであり、その納税義務者を「主催者」等としたものであつて、両者は立法の趣旨を異にするものであるから、入場税法に所得税法四条、法人税法三条に相当する規定のないことを以て直ちに前者の納税義務者を自然人及び法人に限定すべきものとすることは出来ない。

(2) 原告は入場税法二八条、二三条を根拠に同法は人格なき社団を納税義務者に予定していないと主張するが、罰則本条に対する両罰規定および申告義務等の承認規定は、立法時における行政上の心要ないし立法政策として特に存置の要ある事例について設けられた法本条に対する補完規定であつて、これを根拠に入場税法が人格なき社団に納税義務を負わしめないものと解すべきではない。

(四) 入場税法は憲法二五条に違反しない。

国家活動を営むにあたつて必要な財力は、これを租税として広く国家の構成員たる国民から徴収する必要があり、入場税法は、国の租税政策に基づき、興行場等への入場についての娯楽的消費支出に対して担税力があるものとして、これに入場税を課そうとするものであるところ、原告が、入場税法が憲法二五条に違反すると主張するのは、結局国家の社会政策ないし租税政策の一般的当否を糾弾するにとどまり、裁判所の権限外の事項についての判断を求めようとするものであつて、右主張は失当である。

(五) 原告に入場税を課することは憲法二五条に違反しない。

(1) 今日における文化の対象の普遍性と文化領域の一般性を考えるとき、原告の会員が原告を通じてのみその文化的欲求を満足するほかない状態にあるかどうかは極めて疑問である上、原告に本件課税処分がなされたからと云つて、その当然の結果として原告の会員らが原告の主催する音楽等を観賞することが出来なくなるわけではない。

(2) 憲法二五条一項は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接国民に対して具体的な権利を賦与したものではないから、この規定を引用して直ちに入場税法に基づく課税処分が「国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を侵したとするは当らない。

(3) さらに、もし国の任務が単にすべての国民に健康で文化的な最低限度の生活を営むことを保障すると云うことだけにあるならば、いやしくもこうした最低限度の生活を営むことの出来ない者を生ずるような課税処分は否定されなければならないだろうが、娯楽的消費支出に入場税を課する租税政策の趣旨は、いわゆる生活権の論理によつて単純にこれを課すことの出来ないものである。

(六) 原告の例会は入場税法二条一項の「催物」に該当し、原告は同条二項の「主催者」である。

原告は、よい音楽を安く上演してその会員に観賞させることを目的として、音楽愛好者によつて組織された団体であり、規約に基づいて、最高議決機関(代表者会議)を有し、役員代表者を選出し、運営委員会が代表者会議の定めた運動方針にしたがつて例会の企画案を作成し、これに基づき事務局等が直接又は間接に(四国の他の労音と企画調整をする必要がある)音楽家との出演交渉をし、原告の名において出演契約や会場借受契約を締結し、その出演料、賃借料を支払い、これを原告の会計帳簿上で収支決済しているのであつて、原告の会員はただ会費を醵出し、例会参加券の交付を受けて、上演される音楽等を観賞するにすぎない。従つて、かかる音楽会等の例会を主催するのは原告自身であり、会員は単なる観客に過ぎないのであるから、例会は入場税法二条一項の「催物」に該当し、原告は同条二項の「主催者」である。

原告は、例会は原告の会員自らが設営し、自ら観賞するものであつて、見せ聞かせる者と見、聞く者との対立は全くないと主張するが、その云うところの会員自らが設営し観賞すると云うことの内容は団体運営上の特色たるに過ぎず、原告が例会を主催し、これを多数の会員に観賞させるものであることには何ら変りがない。ただ、それが一般の興行と異なるのは、観客が不特定の者でなく、会費を納入した会員であると云うことであるが、入場税法二条一項にいう「催物」とは、多数人に見せ又は聞かせるものであれば足り、その特定不特定は問うところではない。

(七) 原告の会員の支出する会費は入場税法二条三項の「入場料金」であり、原告は入場料金を「領収」している。

原告の規約によれば、会員はサークルの代表者を通じて毎月原告が定めた日までに会費を納入することになつており、会費は原告に帰属するものであり、会費を納入した会員には例会参加券が交付されるが、会長を納入しない者は脱会とみなされて参加券は交付されず、例会当日は会員証と参加券を提示した会員にのみ入場が許されるのであるから、会費は例会という催物の観賞に対する対価性を有することは明らかであり、従つて会費は同条項に云う「入場料金」であり、原告は入場料金を「領収」している。

原告は、会費は会員が原告の諸活動の費用を分担割出するものであつて例会観賞の対価ではないと主張するが、会費は総て原告が例会の開催を契機として、その観賞をする者から徴収されているものであり、例会以外の活動にあてられる費用は、単に例会観賞の対価に相当する収入金となつた後の一部が原告の計算に於て消費されるにすぎない。

第三証拠

(原告)

一、甲第一ないし九号証、検甲第一号証の一、二、第二号証を提出。

右第甲第一号証の一は原告の男性会員証、同号証の二は原告の女性会員証、同第二号証は昭和三九年度の原告所属サークルの代表者手帳である。

昭和四〇年(行ウ)第一〇号事件、同年(行ウ)第一一号事件、昭和四一年(行ウ)第六号事件につき併合前にそれぞれ甲第一号証を提出。

二、証人栗原明子、同仲亀昌身、同照屋知子、同牧幸雄、同山崎暁美、同山庄司巌、同横山秀敏、同清水津昭の各証言を採用。

三、乙第一三、一四号証の各一、二、第二一ないし二三号証の各一、第五六号証の一ないし三、第五七号証の一、二、第五八号証の一ないし三、第五九号証、第六〇ないし六二号証の各一、二の成立はいずれも不知、その余の乙号証(但し第六六ないし六八号証、第七三、七七、八〇、八五、九四号証の各一、二を除く。右乙号各証の認否はしない。)の成立はいずれも認め、検乙第一ないし三号証か被告ら主張のとおりの写真であることを認める。

昭和四〇年(行ウ)第一〇号事件につき併合的に提出された乙号証のうち第三号証の一の成立は不知、その余の乙号証の成立をいずれも認める。

昭和四〇年(行ウ)第一一号事件につき併合前に提出された乙号証の成立をいずれも認める。

(被告ら)

一、乙第一ないし五号証、第六号証の一、二、第七号証の一、二、第八、九号証、第一〇号証の一、二、第一一、一二号証、第一三、一四号証の各一、二、第一五号証の一ないし三四、第一六ないし二〇号証、第二一号証の一ないし三、第二二号証の一ないし四、第二三号証の一ないし三、第二四ないし二六号証の各一、二、第二七ないし四六号証、第四七ないし五一号証の各一、二、第五二号証の一ないし三、第五三号証の一、二、第五四号証の一ないし三、第五五号証、第五六号証の一ないし三、第五七号証の一、二、第五八号証の一ないし三、第五九号証、第六〇ないし六二号証の各一、二、第六三号証、第六六ないし六八号証、第七三号証の一、二、第七七号証の一、二、第八〇号証の一、二、第八五号証の一、二、第九四号証の一、二、検乙第一ないし三号証を提出。右検乙第一ないし三号証は昭和四〇年九月二日高松地方裁判所正門前の電柱に貼付してあつた原告の例会広告ビラの写真である。

昭和四〇年(行ウ)第一〇号事件につき併合前に、乙第一、二号証、第三号証の一ないし一〇、第四号証の一ないし三、第五号証の一、二を提出。

昭和四〇年(行ウ)第一一号事件につき、併合前に、乙第一、二号証、第三号証の一ないし四、第四号証の一、二、第五号証の一ないし一〇を提出。

二、証人細谷高正、同大杉勉、同牧幸雄、同中野英明、同祖一光安、同岸上恵の各証言を採用。

三、甲号証および昭和四〇年(行ウ)第一〇号事件、同年(行ウ)第一一号事件、昭和四一年(行ウ)第六号事件につき併合前に提出された甲号証の成立をいずれも認め、甲第四、七号証についてはその原本の存在も認める。検甲第一号証の一、二が原告の会員証であること、同二号証が原告の代表者手帳であることは認める。

理由

一、原告が定期的に音楽会(例会)を開催していること、および原告の主張二の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで本件各課税処分の適否について検討する。

(一)  原告の主張三の(一)について

成立について争いのない(以下書証を引用する場合昭和四〇年(行ウ)第一〇、一一号、昭和四一年(行ウ)第六号各事件につき併合前に提出された甲、乙各号証を含まないこととする。)甲第一ないし四号証、乙第四七ないし五〇号証の各二、第五二、五三号証の各二(甲第四号証については原本の存在についても争いがない。)証人牧幸雄の証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は、香川県とその近辺に住む勤労者、学生、一般市民の音楽愛好者(会員)によつて構成された「サークル」(最低三名の会員からなる。)が集合して形成された団体であつて、多くの会員が、よい音楽を安い値段で観賞することが出来るようにし、右音楽の理解を通じて人間性を養い働く者の生活を豊かにすることを目的として、定期的な音楽会等(例会)の開催を主とし、その他機関誌の発行、例会合評会、座談会、レコードコンサート等の音楽活動を行つていること、原告には代表者会議、運営委員会、委員長、副委員長、事務局長、専門部会、常任委員会等の機関があり、代表者会議は各サークル代表者によつて構成され、原告の活動方針、予算の大綱、収支決算報告、規約改正等を審議決定し、運営委員会は代表者会議によつて選出された運営委員によつて構成され、代表者会議で決議された活動方針に基づき日常活動の運営方針を決定し、専門部会は運営委員によつて構成され、企画、宣伝、事業、財政等の部があり、財政部は原告の財産を管理し、委員長、副委員長、事務局長は所謂三役と呼ばれ、運営委員会によつて運営委員の中から選出され、委員長は対外的に原告を代表するものとされていること、そして三役を除く右各機関の決議については多数決の原則がとられていること、原告は昭和二九年一二月に設立されて以来、常時会員の増減変動がありながら同一の団体として存続してきたこと、以上の事実が認められ証人横山秀敏、同栗原明子、同仲亀昌身の各証言中右認定に反する部分はたやすく信用することは出来ず現にこれに反する証拠はない。そして右認定事実によれば、原告は個々の会員又はその集合体であるサークルとは別個独立の組織的単一体として、構成員の変更にかかわらず存続し、多数決原理が行なわれ、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定しているものであるからいわゆる人格なき社団であることが明らかである。

(二)  原告の主張三の(二)について

人格なき社団も、社会的現象としては、その構成員とは別個独立の、社会生活上の一単位として実在し活動しているのであつて、その実体は社団法人と異ならないものであるから、人格なき社団が本来的に権利義務能力を賦与される資格に欠けるものということは出来ないのであつて、これに権利業務能力を賦与するか否かは専ら立法政策の問題である。又私法上の権利義務能力が賦与されていないものでも公法上の法律関係について権利義務能力を認めてこれを法的機関の対象としても、何等理論上の不合理は存しない。そして人格なき社団は、その機関たる代表者の行為によつて第三者と取引関係を結び、その名において構成員全員の為に権利を取得し義務を負担することが出来るのであつて、ただ私法上権利能力が認められていないために、その取得した権利又は負担した義務は構成員全員に総有的に帰属するのであり従つて人格なき社団に納税義務を課した場合は、その総有財産から履行することが可能なのである。そして憲法三〇条にいう納税義務を負う「国民」が私法上権利能力を認められた自然人または法人に限られると所すべき根拠はなく、人格なき社団に対しても法律によつて納税義務を負わせることは可能であり現に所得税法その他の実定法上人格なき社団に納税義務を負わしめている例は数多く存するのである。従つて原告の右主張は理由がない。

(三)  原告の主張三の(三)について

入場税法三条は同法による入場税の納税義務者を、興行場等の経営者及び主催者(興行場等を借受けて臨時に催物を主催する者)(以下「経営者」等という)と規定しているところ、人格なき社団は組織的単一体として独立性を有し、その実体に於て社団法人と異なるところはなく、社会的活動をなし得るものであるから映画、音楽等の催物を主催し得ることい言うまでもない。そして同法には納税義務者としての「経営者」等から人格なき社団を除外する旨の規定は存しないのであるから、右「経営者」等には斯る社団も当然含まれるものと云わなければならない。そしてこのことは同法八条一項の規定からも窺うことが出来る。即ち同条項は同法別表上欄に掲げる、児童、生徒、学生又は卒業生の団体、学校の後援団体、社会教育法一〇条の社会教育関係団体等が同法の「主催者」として入場税の納税義務を負うことを前提とし、斯る団体が所定の要件を満した場合に入場税を免除する旨を規定しているのであるが、これらの団体は必ずしも法人格を有するとは限らず、人格なき社団に該当する団体も考えられるのあでるから(同社会教育法一〇条によれば社会教育関係団体は法人であると否とを問わないものとされている。)入場税法八条一項の規定は同法三条の「経営者」等の中に人格なき社団が含まれると解すべき一の根拠となる。この点につき原告は、入場税法上納税義務者に関する基本法条は同法一条ないし三条であつて、右八条一項は直接には免税興行に関する規定であり、これによつて基本法条が修正されるいわれはなく、むしろ右八条一項は同法別表上欄に掲げる団体で法人格を有するもののみに関する規定であると主張するが、右主張の中納税義務者に関する基本法条が一条ないし三条であり、それが八条一項によつて修正されるべきものでないことは原告主張の通りであるけれども、右一条ないし三条の規定の解釈に当り八条一項及び右別表の記載を参酌し得ることは云うまでもないところであつて、これによつて右基本法条が修正されるものではないのであるし、又右主張のその余の部分は原告の独自の見解というほかなく到底採用することは出来ない。

尤も以上の点については、原告の指摘する如く、現行所得税法四条、法人税法三条には「人格のない社団等は法人とみなして、この法律の規定を適用する」旨規定されているので、斯る規定のない入場税法については「経営者」等を個人と法人に限るべく、これに人格なき社団は含まれないと解する余地がないではない。然し所得税法及び法人税法は共に所得に対して課税せんとするものであるところ、所得を生ずるのは個人と法人のみに限らず、人格なき社団も収益事業を営むことによつて所得を生ずるものであり、これに対しても課税すべきことは租税負担の公平の原則から当然要請されるところである。ところで所得税法は原則として個人の所得に、法人税法は原則として法人の所得にそれぞれ適用されるのであるが(例外として法人の利子所得等については源泉徴収制度を設けたこととの関係上これに所得税法を適用することとしている、)所得税法と法人税法とでは所得及び税額の算定方法等を異にしている結果、人格なき社団の所得については何れの法律を適用すべきかを明らかにする必要があるのであつて、前記所得税法四条及び法人税法三条は斯る社団の所得について課税することを明らかにすると共に右課税を法人の場合と同様とする旨を規定したものである。右の如く所得税法及び法人税法に於ては所得の帰属主体が重要な問題となるのであるが、入場税法に於てはこれに反し、その納税義務者が個人であるか法人であるか等又人格なき社団であるかによつて課税上の取扱を異にする必要はないのであり、又入場税額は通常人場料金に組込まれて入場者が実質的負担者となるのであつて、この点からも納税義務者が法人格を有するか否かを問題とする必要がないのであるから、同法は実際上「経営者」等となり得る個人、法人及び人格なき社団を含めて入場税の納税義務者を「経営者」等と規定したものと解されるのである。従つて同法に所得税法、法人税法の前記の如き規定がないことから当然に右「経営者」等には人格なき社団は含まれないと解することは出来ない。

尚入場税法二三条、二八条は人格なき社団に関し何ら触れていないことは原告主張の通りであり、又右二八条につき原告主張の通りの改正経緯があつたのであるが、然しこれらの規定は納税義務者を定めるものではなく、入場税等に関する申告義務を承継させ或は刑罰規定を置くことによつて徴税の実効性を担保しようとして設けられたものであるから、これらの規定において人格なき社団が対象とされていないからと云つて、斯る社団に対する徴税の実効性が弱められることがあるとは云えても、同法三条の納税義務者に右社団が含まれないとする論拠とはならない。

そして以上の解釈は租税負担の公平の原則からも是認されるものと考えられるのであつて、即ち法人が「経営者」等である場合には入場税の納税義務を負担するのに、法人と同様社会的活動を営み、実体に於てこれと異なるところのない人格なき社団が「経営者」等である場合には同税の納税義務がないとすることは、著るしく均衡を失し、到底右原則に違う解釈とは云えないのである。

以上の次第で人格なき社団も入場税法三条の「経営者」等に含まれると解されるのであつて、そうとすれば本件各課税処分は法律に基づいて行なわれたものであることは云うまでもなく、従つてそれが憲法八四条に違反する違法なものであるとする原告の主張の失当であることは明らがである。

(四)  原告の主張三の(四)について

入場税法は音楽、映画、演劇等の興行場等への入場につき、その娯楽的消費支出に担税力を認めて入場税を課そうとするものであり、その実質的担税者は入場者であることは前述のとおりであり、音楽等の観賞が勤労者の労働力の回復に重要な働きをすることは否定出来ないけれども、文化領域が普通化し多様化している今日、音楽等の観賞のみが右の働きをするものとは云えないのみならず、何が健康で文化的な最低限度の生活であるかはその時の国の文化水準財政事情等との関連において相対的に決せられるべき事柄であり、かつ音楽等の観賞の必要性は衣食住と異なりおのずから弾力性があることからすれば、勤労者に入場税を負担させることが直ちにその生存権を侵害することとなるとは云えないのであつて従つて、入場税法が憲法二五条に違法するということは出来ず、右主張は理由がない。

(五)  原告の主張三の(五)について

原告の音楽活動が原告の主張のとおりであるとしても原告に入場税を課することによつて、原告の会員が文化的な最低限度の生活を営み得なくなると云えないことは右(四)に述べたところから明らかである。従つて原告の右主張も理由がない。

(六)  原告の主張三の(六)について

入場税法二条一項及び二項によれば催物とは興行場に於て映画、演劇、演芸、スポーツ、見せ物、競馬、競輪その他政令で定めるこれらに類するもので、多数人に見せ又は聞かせるものであるとされ、又主催者とは臨時に興行場等を設け又は興行場等をその経営者若くは所有者から借り受けて催物を主催する者を云うとされている。ところで、原告の実体が人格なき社団であつて構成員たる個々の会員とは別個独立の存在であり、各種の機関を有し、社会的実在として例会の開催を中心とする音楽活動を続けて来たことは前記(一)で認定した通りであり、そして成立に争いのない甲第二、五、六号証、乙第五四号証の二、第五五号証、原告の会員証であることに争いのない検甲第一号証の一、二、原告の例会の街頭広告ビラの写真であることに争いのない検乙第一ないし第三号証、証人栗原明子(一部)、同仲亀昌身(一部)、同照尾知子、同山床司巌、同横山秀敏、同牧幸雄、同細谷高正、同中野英明、同祖一光安、同岸上忠の各証言および弁論の全趣旨によれば原告の例会(音楽が上演されて会員がこれを観賞する)は毎月一、二回程度開催されているか、それに至るまでの手続の大略は、ほぼ年一、二回開かれる代表者会議に於て、年間の活動方針の大綱が決さられ、運営委員会において、各専門部会の検討を経た上で上演種目、出演者、会費の額等具体的な例会開催計画が決せられ、右開催計画に基づき、委員長が原告を代表し又は事務局長が委員長を代理して音楽家等と出演契約を締結し、又会場所有者と会場の借受契約を締結するのであり、又例会開催計画の立案にあたつては、サークル代表者、地域会議等を通じ或はアンケート等によつて上演種目内容等についての会員の希望、意見を可及的多く収集し参酌するよう記慮されているが、計画の最終決定は原告の機関の多数決によつてなされていること、会費の額は前記代表者会議ないしは運営委員会に於て原告の年間の諸収入及び諸経費を勘案の上、例会の上演種目、内容、出演者の顔ぶれ、予想される入場者数等によつて、各例会別に決定され、一ケ月に二以上の例会(A例会、B例会、又は第一例会、第二例会等と呼ばれる)が開催される場合は各例会別にその内容に応じた会費が定められること、会員は自己の選択によつて全部の例会に参加することも出来るし、(この場合は全部の例会について定められた会費を納めなければならない。)又この中の一の例会のみに参加することも出来る(この場合は当該例会について定められた会費のみを納める。)こと、会員は入会と同時に色彩等によつて性別と年令別(一〇歳単位)に分けられた会員証を交付され(但し昭和三七、八年頃は年令別の区別はなかつた。)毎月翌月分の会費(例会が二以上ある場合は会員の選択する例会について定められた会費)の納入と引換えに翌月の例会の参加券(例会が二以上ある場合は会員の選択した例会の参加券)の交付を受けること、例会会場に入場する際、会員証と参員券を提示しなければならないこととされているが、会員証の提示は必ずしも励行されていないのが実情であつて、この際、会員以外の者も会員から譲受けた当該例会の参加券を提示することによつて入場することが事実上行なわれていること、原告の会員となる者の資格には格別の制限はなく、誰でも入会金(一〇〇円)と一回分の会費を納入し一つのサークルに加入することによつて容易に会員となることが出来る反面、脱会も自由であり、一度の会費の納入を怠れば自動的に退会したことととされるのであつて、従つて会員数は毎月増減し、二、〇〇〇人程度から多い時には約五、〇〇〇人に達したこともあり、例会の上演種目により一ケ月に一、〇〇〇人余の退会者の出ることもあり、一年間の入会及び脱会の各延人員が六、〇〇〇人に達したこともあつたこと、原告は街頭広告や宣伝ビラ、新聞折込み広告によつて例会の開催を会員以外の一般公衆にも広く宣伝して参加を呼びかけており、例会を観賞したいが加入するに適当なサークルのない者には原告の事務局内にあるサークルに加入させて会員としていること。以上の事実が認められる。証人栗原明子、同仲亀昌身の各証言中右認定に反する部分はたやすく信用することは出来ず、他にこれを覆えすに足る証拠はない。

そして右認定の事実と冒頭記載の事実を総合して考察すると、例会は、会員と別個独立に存在する原告が各会員の意見を尊重しながら、自ら上演種目、出演者、会費等を決定し、又音楽家との出演契約、会場所有者との会場借受契約も自らの名でなして、会員に観賞させる為にこれを開催するものであり、一方会員は右例会中自己の希望する上演種目が上演される例会の場合は原告の定めた会員を納めることによつてこれを観賞することが出来、或る月に例会が二以上ある場合は同月分の会費であつても各会員の選択する例会によつて会費の額が異なることがあり得るが、これは一般の興行を観賞する場合に興行毎に入場料が異なるのに類似するのであるし、又上演種目が会員の希望するものでない場合は当該会員は会費を納めないことによつて自由に原告を脱会することで出来るのであつて、要するに会員は、例会の開催計画を審議する際に、自己の希望ないしは意見を述べることが出来るとしても、例会開催の最終決定は原告の機関の多数決によつてなされるのであり、これに基づいて会員と別個独立に存在する原告が開催する例会を、会員が一定の会費を原告に支払うことによつて観賞することが出来るのであつて、そこには例会を観賞させる側とこれを観賞する側との対立関係の存することは否定出来ないというべきであり、殊に、右例会を観賞する者は必ずしも固定的な会員のみに限らず或る例会を観賞する為にのみ会員となる非固定的な会員もかなりの数に昇つていることが推認されるのであるが斯る会員は例会の開催について何等関与するところはなく一般興行における観客と殆んど異なるところはないというべきであつて、而も原告は広告、宣伝ビラ等によつて斯る会員の観賞も広く呼びかけているのであり、斯る会員と原告との間には明らかに観賞する側と観賞させる側との対立関係が存するものといわねばならない。そして以上の点からすると原告の例会は入場税法二条一項に云う「催物」に該当するというべきであり、これを開催する原告は同条二項の「主催者」に該当するものというべきである。

原告は、例会は原告の会員が自ら企画・設営して自ら観賞するものであると主張し、その大きな根拠として、例会の企画立案について会員の意見希望を最大限に取入れるように運営がなされていることを挙げているが、それは、既に認定したところから明らかな通り、原告の意思決定の過程での特色たるに過ぎす、これによつて原告が例会を開催しているとの判断が動くものではない。又証人栗原明子、同照屋知子の各証言によれば、各例会当日の会場設営や例会の進行係などを各サークルが毎月交替で担当していることが認められるが、それは例会費用の節減をはかるための原告に対する奉仕とみるべきものである。

結局、原告の右主張も理由がない。

(七)  原告の主張三の(七)について

入場税法二条三項によれば、入場料金とは興行場等の経営者又は主催者が何れの名義でするかを問わず興行場等の入場者から領取すべきその入場の対価をいうとされている。ところで例会は同法所定の催物に該当し、原告はその主催者であること、或る例会の観賞を希望する者の当該例会の会場へ入場するためには、あらかじめその例会について定められたその会費(従来会員でなかつた者は入会金と共に)を納入してこれと引換えに交付された参加券を呈示することが要求され、会員といえども参加券がなければ入場を許されない反面、会員でなくとも他の会員から譲受けた参加券を呈示することによつて入場することが事実上行なわれていること、会費の額は一定せず、各例会の上演種目、内容等によつて個別に決せられていること、一ケ月に二以上の例会が開催される場合その中の一の例会のみの観賞を希望する会員は当該例会について定められた会費のみを納めて当該例会のみを観賞することも出来ることは何れも前記(六)において認定の通りであり、又証人仲亀昌身、同栗原明子、同牧幸雄の各証言によると、会費の約六割は出演料、会場借受等の例会の直接経費にあてられ残余の約四割は機関誌、代表者ニユース、宣伝パンフレツト等の発行費、事務局長その他の専徒事務局員に対する生活保障費の各目で支給される給料、事務局費、通信費、各労音間の連絡機関である四国労音協議会又は全国労音協議会に対する分担金等例会開催の為の間接経費にあてられていることが認められ、これに反する証拠はない。そしてこれらの事実からすれば、例会参加券は一般興行における前売券と同様のものであり、会費は実質的には当該開会会場への入場に対する対価であつて、入場税法二条三項にいう入場料金と該ると認めるのが相当である。なお、原告は、原告の活動は例会以外に例会合評会、座談会、レコードコンサート、フオークダンス、歌唱指導、合唱会等多岐にわたり、会費はこれらの活動の費用にもあてられているから、会費のすべてが例会入場の対価となるものではないと主張するが、証人仲亀昌身、同山床司巌、同横山秀敏の各証言によれば右合評会等は多くは各サークル毎に行なわれ、そのための費用は各サークルの構成員が持ち寄つた金員でまかなわれる場合が多いことが認められ、従つて例会の会費がこれらの費用に用いられることは極く僅かであることが推認されるのであり、而も各会費の額は、右合評会等に支出される費用を含め、一年間の原告の収入、支出を勘案の上、例会に上演される音楽の内容等に応じて原告が決定していることは前記認定の通りであるから、右合評会等の費用の一部に右会費の一部が支出されている事実は、未だ前記の結論を左右するものではない。従つて原告の右主張も理由がない。

三、以上検討したところから明らかなように、本件各課税処分には原告主張のような違法なところはなく、かつ、原告が開催した別表記載の各例会の入場人員、経費総額、課税標準額および入場税額ならひに無申告加算税額は当事者間に争いなく、かつ原告が別表記載の各例会につき入場税法一〇条所定の申告をしなかつたことは弁論の全趣旨から明らかであるから、被告らのした本件各課税処分はすべて違法であつて原告の請求はいずれも理由がないものと云わねばならない。

よつて本訴請求を何れも棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林義一 裁判官山脇正道、同仲渡衛は、転勤につき、署名押印できない。裁判長裁判官 林義一)

別表一(第一、第二課税処分)

〈省略〉

第一課税処分 第二課税処分

課税申分 昭和38.4.22 昭和38.9.14

異議申立 〃 38.5.20 〃 38.10.11

異議棄却 昭和38.8.16 ―

審査請求 昭和38.9.14 昭和38.11.20

(国税通則法81条で審査請求とみなされる)

審査請求棄却 〃 39.5.29 〃 39.5.29

別表二(第三課税処分)

〈省略〉

課税処分 昭和38.9.14

異議申立 〃 38.10.11

審査請求 〃 38.11.20(国税通則法81条で審査請求とみなされる。)

審査請求棄却 〃 39.5.29

別表三(第四課税処分)

〈省略〉

課税処分 昭和38.9.14

異議申立 〃 38.10.11

異議棄却 〃 38.12.18

審査請求 〃 39.1.13

審査請求棄却 〃 39.5.29

別表四(第五課税処分)

〈省略〉

課税処分 昭和38.9.14

異議申立 〃 38.10.11

異議棄却 〃 38.12.18

審査請求 〃 39.1.13

審査請求棄却 〃 39.5.29

別表五(第六課税処分)

〈省略〉

課税処分 昭和39.12.11

異議申立 〃 40.1.8

異議棄却 〃 40.3.17

審査請求 〃 40.4.16

審査請求棄却 〃 40.5.19

別表六(第七課税処分)

〈省略〉

課税処分 昭和40.3.17

異議申立 〃 40.4.16

異議棄却 〃 40.6.30

審査請求 〃 40.7.1

審査請求棄却 〃 40.8.14

別表七(第八課税処分)

〈省略〉

課税処分 昭和40.10.9

異議棄却 〃 40.12.24

審査請求 〃 41.1.24

審査請求棄却 〃 41.3.17

別表八(第九課税処分)

〈省略〉

課税処分 昭和41.3.30

異議申立 〃 41.4.30

異議棄却 〃 41.7.13

審査請求 〃 41.8.13

審査請求棄却 〃 41.10.26

別表九(第十課税処分)

〈省略〉

課税処分 昭和42.3.28

異議申立 〃 42.4.28

異議棄却 〃 42.6.24

審査請求 〃 42.7.26

審査請求棄却 〃 42.9.27

別表十(第十一課税処分)

〈省略〉

課税処分 昭和41.12.21

異議申立 〃 42.1.21

異議棄却 〃 42.6.6

審査請求 〃 42.5.6

審査請求棄却 〃 42.6.20

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例